2026年07月31日
こんにちは。歯科医師の堀井です。
今回は「歯周組織再生療法」についてお話しします。
「歯周病で骨が溶けています。」
歯科医院でこのように説明を受けたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
「もう抜歯しかないのでしょうか?」
患者さんから最も多くいただく質問の一つです。
もちろん、すべての歯が残せるわけではありません。
しかし、以前であれば抜歯と診断されていたような歯でも、現在では歯周組織再生療法によって保存できる可能性があります。
歯周病というと、歯ぐきが腫れたり血が出たりする病気というイメージを持たれる方が多いと思います。
しかし、本当に怖いのはその先です。
歯周病が進行すると、歯を支えている歯槽骨や歯根膜が少しずつ失われていきます。
骨が減れば減るほど歯を支える力は弱くなり、歯周ポケットも深くなります。
深い歯周ポケットは細菌が非常に住みやすい環境です。
そのまま放置すると細菌による炎症が続き、さらに骨が溶けるという悪循環に入り、最終的には歯が大きく揺れ、抜歯が必要になることも少なくありません。
だからこそ、深い歯周ポケットを改善することが歯を長く残すために非常に重要になります。
歯周組織再生療法とは?
歯周組織再生療法は、失われた歯を支える組織をもう一度作り直すことを目指す治療です。
歯ぐきを開いて感染した組織や歯石を徹底的に除去した後、再生を促す薬剤を使用し、骨や歯根膜が再びできる環境を整えます。


当院では症例に応じてエムドゲイン(EMD)やバイオオス(Bio-Oss)を使用しています。
エムドゲインは、歯が生えてくる時に働くタンパク質を応用した薬剤です。
身体に「もう一度歯を支える組織を作ろう」という信号を送り、歯槽骨・歯根膜・セメント質の再生を促します。
さらにバイオオスは、新しい骨ができるための「足場」となる材料です。
特に骨の欠損が大きい場合では、エムドゲイン単独よりもバイオオスを併用した方が、骨の回復量が増え、歯ぐきの退縮も少なくなることが報告されています。
「骨を作る」と聞くと、本当にそんなことができるのか疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。
実は歯周組織再生療法は、多くの臨床研究によって効果が確認されています。
通常の歯周外科手術と比較すると、
・歯周ポケットはさらに浅くなる
・歯を支える組織がより多く回復する
・治療後に5mm未満まで改善した歯周ポケットは約94%
という良好な結果が報告されています。
さらに長期経過を見ると、
5年後で約92%、10年後でも約88%の歯が保存されていた
という報告もあります。
つまり、適切な症例では非常に長期間にわたって天然歯を維持できる可能性があるのです。
「残す」ということには大きな価値があります
もし歯を抜けば、インプラントやブリッジ、入れ歯という選択になります。
もちろんどれも優れた治療法ですが、天然歯に勝るものはありません。
天然歯には歯根膜という組織があり、食べ物の硬さや噛む力を感じ取ることができます。
さらに長期的には、再生療法の方がインプラント治療より合併症が少なく、10年間の総費用も抑えられるという報告があります。
「抜く」のではなく「残す」。
それが歯周組織再生療法の最大の魅力だと私たちは考えています。
しかしながら歯周組織再生療法は万能ではありません。
骨の形や歯の状態によっては適応できないこともあります。
また、治療後も毎日の丁寧な歯磨きや定期的なメインテナンスが欠かせません。
喫煙や糖尿病は治療に影響することも知られています。
だからこそ、治療前の診査・診断が非常に重要になります。
「歯周病だから仕方ない」
「骨が溶けてしまったから抜歯しかない」
そう考えられていた時代から、歯科医療は大きく進歩しました。
もちろんすべての歯を残せるわけではありません。
しかし、残せる可能性がある歯を、最初から諦める必要もありません。
ご自身の歯で長く食事を楽しみ、いつまでも快適に生活していただくために、私たちは「歯を残す治療」を大切にしています。
2026年07月18日
こんにちは、歯科医師の飯田です。
最近は温度が高くなってきているのにまだジメジメして過ごしにくい日が続いています。
疲れなどが溜まりやすいので、健康管理には気をつけてください。
今日はよく歯科に来院する一歩目で多いのではないかと思う被せ物が取れたについてお話ししていきます。
「食事中に急に被せ物が取れてしまった。」
「痛みはないけれど、このまま様子を見ても大丈夫?」
「被せ物が取れたということは、この歯はもう抜かなければいけないの?」
被せ物が取れると、不安になってしまいますよね。

実際に診療をしていると、「もう抜歯しかないと思っていました」と来院される患者さんも少なくありません。
しかし、被せ物が取れたからといって、必ずしも抜歯になるわけではありません。
一方で、「痛みがないから」と様子を見てしまうことで、歯を残せる可能性が低くなってしまうこともあります。
まずは、被せ物が取れた原因を調べることが大切です。
被せ物の下の歯はどうなっているの?
被せ物は、ご自身の歯を削って形を整え、その上から装着しています。
そのため、外れた後は小さく削られた歯や土台だけが見え、「歯がほとんどなくなってしまった」と驚かれる方もいらっしゃいます。
しかし、見た目だけで歯の状態を判断することはできません。
被せ物の下では、
* 虫歯が再発している
* 歯が欠けたり割れたりしている
* 土台が外れている
* 根の先に炎症が起きている
など、さまざまなことが起こっている可能性があります。
そのため当院では、まずレントゲンや必要に応じてCT撮影を行い、「なぜ被せ物が取れたのか」を確認したうえで治療方針を決めています。
被せ物は、そのまま戻せることもあります
被せ物が取れた原因が、接着剤(セメント)の劣化だけであれば、状態によってはそのまま装着し直せることがあります。
一方で、被せ物の下で虫歯が進行していたり、歯が欠けていたりすると、付け直すだけでは再び外れてしまう可能性があります。
「被せ物が取れた」という出来事は、歯からのサインかもしれません。
だからこそ、ただ元に戻すのではなく、原因まで確認することが大切です。
歯を残せる可能性がある場合
虫歯が大きく進行すると、被せ物を支える歯の高さが足りなくなることがあります。
以前は抜歯が選択されることも多かったケースでも、現在では歯の状態によって保存できる可能性があります。
例えば、エクストリュージョンでは、歯の根を少しずつ引き上げ、歯ぐきの中にある健康な歯質を利用できる状態を目指します。
また、クラウンレングスニングでは、歯ぐきや骨の形を整え、被せ物を安定して支えられる環境を作ることがあります。

さらに、根の中に感染が認められる場合には、マイクロスコープやラバーダムを用いた自費根管治療をご提案することもあります。
もちろん、これらの治療がすべての方に必要なわけではありません。
歯の状態や噛み合わせ、ご希望などを踏まえ、その歯にとって最適な方法を一緒に考えていきます。
残念ながら抜歯をおすすめすることもあります
私たちは、できるだけご自身の歯を残したいと考えています。
しかし、すべての歯を無理に残すことが良いとは考えていません。
例えば、
* 歯の根が縦に割れている場合
* 歯を支える骨がほとんど失われている場合
* 虫歯が深く進行し、長期的な保存が難しい場合

このようなケースでは、無理に歯を残すことで、周囲の歯や骨に負担をかけてしまうことがあります。
そのため、将来のお口全体の健康を考えた結果として、抜歯をご提案することもあります。
大切なのは、「残すこと」そのものではなく、患者さんにとって最善の治療を選択することです。
被せ物が取れたら、まずはご相談ください
被せ物が取れても痛みがないことは珍しくありません。
しかし、その間にも虫歯や歯の破折が進行し、治療の選択肢が少なくなってしまうことがあります。
被せ物が取れたときは、「付け直せるかな?」だけではなく、「今の歯の状態はどうなっているのか」を確認する良い機会でもあります。
当院では、現在の状態を丁寧に診査し、付け直しで対応できるのか、歯を残すための治療が必要なのか、あるいは抜歯を含めて考えた方が良いのか、それぞれのメリット・デメリットをわかりやすくご説明しています。
被せ物が取れてお困りの方や、他院で抜歯と言われて悩まれている方も、お気軽にご相談ください。
2026年07月4日
こんにちは。市川ビルさとう歯科・矯正歯科 船橋の坂牛です。
私は最近ベランダの家庭菜園がブームです。
毎朝水や液体肥料をやったり、つる植物の誘導などの世話をします。少しずつミニトマトやナスの実が大きくなるのを見ていると心癒されます☺️
今日は歯髄保存療法のお話です。
「虫歯が深くて、神経を抜かなければいけないと言われた…」 そんな経験をされた方や、今まさに不安に思っている方はいらっしゃいませんか?
かつては、歯の深い部分まで進んでしまった虫歯は、痛みを止めるために「神経を抜く(抜髄:ばつずい)」のが一般的な治療でした。
しかし近年、歯科医療の進歩にともない、「できる限り歯の神経を残す」ための画期的な治療法が注目を集めています。
それが、Vital Pulp Therapy(バイタル・パルプ・セラピー:歯髄保存療法)です。
今回は、大切なご自身の歯を長く守るためのこの最新治療について、臨床研究のデータも交えながら、分かりやすく解説します。
そもそも「歯の神経」を残すのはなぜ重要?
「神経を抜いてしまえば、もう虫歯の痛みを感じなくて済むからいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、歯の神経(専門用語で「歯髄(しずい)」と言います)には、単に痛みを感じるだけでなく、非常に重要な役割があります。
* 歯に栄養を届ける: 神経の周りには血管が走っており、歯に水分や栄養を供給しています。
* 細菌の侵入を防ぐ: 歯の防御反応として、虫歯菌に対して抵抗する力を持っています。
研究データによると、神経を失った歯は、神経がある歯に比べて将来的に抜歯(歯を失うこと)になってしまうリスクが数倍高まることが分かっています。
つまり、歯を長持ちさせるためには、神経を残すことが何より大切なのです。
1. Vital Pulp Therapyの「適応症例」:どんな歯にできるの?
この治療は、すべての深い虫歯に適応できるわけではありません。治療が成功するかどうかは、「まだ神経が生きていること(回復可能な状態であること)」が条件になります。
【適応となるケース】
* 虫歯は非常に深いが、冷たいものや熱いものが一時的にしみる程度で、激しい痛みが持続していない。
* 何もしていなくてもズキズキ激しく痛むような状態(急性歯髄炎)になっていない。
* レントゲン検査や電気刺激テストなどで、神経の生存と一定の健康状態が確認できる。
* 虫歯を除去している最中に、神経の一部が露出してしまった(偶発性露髄)。
逆に、すでに神経が完全に死んでしまっている場合や、夜も眠れないほどズキズキとした痛みが何日も続いている場合は、残念ながら神経をすべて取り除く治療(根管治療)が必要になります。
2. 治療方法:マイクロスコープと最新素材「MTA」の力
Vital Pulp Therapyは、非常に精密で繊細な治療です。当院では、臨床研究で高い成功率が証明されている手法と最新の材料を用いて治療を行います。

① ラバーダム防湿(無菌状態の確保)
治療する歯以外をゴムのシートで覆います。お口の中の唾液には無数の細菌が含まれているため、治療中に唾液が1滴でも神経に触れると失敗の原因になります。徹底的な無菌環境を作ることが最重要です。

② マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)による精密な虫歯除去
肉眼の数十倍に視野を拡大できるマイクロスコープを使い、健康な歯の構造を傷つけないよう、虫歯に感染した部分だけを精密に削り取ります。

③ 高性能な生体親和性材料「MTAセメント」による封鎖
虫歯を取り除き、露出した神経の表面に「MTA(Mineral Trioxide Aggregate)」と呼ばれる特殊なセメントを塗布します。MTAは強アルカリ性を持ち、高い殺菌効果と優れた密閉性(フタをする力)があります。さらに、体が本来持っている「歯を再生させる力」を促す効果があり、神経の表面に新しい硬い組織(二次象牙質)を作ってくれます。
④ 最終的な詰め物・被せ物
MTAが完全に固まった後、再び細菌が侵入しないよう、セラミックやコンポジットレジンなどで隙間なく精密に修復します。
3. 治療の「予後」:成功率はどのくらい?
患者さんにとって一番気になるのは、「本当に神経を残せるの?」という点ですよね。
近年の多くの臨床研究(海外および国内の論文)において、MTAセメントを使用したVital Pulp Therapyの予後は非常に良好であると報告されています。
* 一般的な成功率: 適切なステップ(ラバーダムの使用、マイクロスコープによる除去、MTAの適用)を踏んだ場合、約80%〜90%以上の確率で神経を残すことに成功しているというデータが多数発表されています。
ただし、治療直後は一時的に「冷たいものがしみる」「噛むと違和感がある」といった症状が出ることがあります。これは神経が回復しようと頑張っているサインであることも多く、数週間〜数ヶ月かけて徐々に落ち着いていくのが一般的です。定期的なメインテナンスで経過を追っていく必要があります。
4. この治療を受ける「メリット」
Vital Pulp Therapyを選ぶ最大のメリットは、一言で言えば「ご自身の歯の寿命を圧倒的に延ばせること」です。具体的には以下のような利点があります。
* 歯が割れるリスクを減らせる: 神経(血管)を残せるため、歯が脆くならず、将来的な歯根破折(歯の根元が割れること)を防げます。
* 治療回数・期間を短縮できる: 通常の「根の治療(根管治療)」になると、何度も通院が必要になることが多いですが、この治療法はスムーズにいけば少ない回数で終わります。
まとめ:あなたの歯の可能性を諦めないために
Vital Pulp Therapy(歯髄保存療法)は、科学的根拠(エビデンス)に基づいた、患者さんの未来の健康を守るための先進的な治療です。
「深い虫歯があるけれど、神経は抜きたくない」「自分の歯を1年でも長く持たせたい」という方は、ぜひ一度当院へご相談ください。マイクロスコープをはじめとする充実した設備と確かな技術で、あなたの大切な歯の神経を守るお手伝いをいたします。